ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
1、著者紹介
梅田 望夫(うめだ・もちお)
1960年生まれ。シリコンバレー在住、当地でIT関係のビジネスコンサルタント会社を経営。(株)はてな取締役。本書は新潮社「FORESIGHT」において連載された「シリコンバレーからの手紙」における思考を基にまとめたもの。
2、概要
日本では2000年ころにIT革命が起こったが、現在のネット世界の最先端ではIT、つまり情報技術ではなく、「情報そのものに関する革命的変化」が起きている。そして、その変化は着実な技術革新を伴いながら、長い時間かけて緩やかに起こるものである。しかし、それはネットの「あちら側」の出来事であるので、ネットを普段から使っていない人にはわかりにくい。本書はそこで起こっている大変化について具体例を挙げながら解説したものである。
3、文章、構成などの感想
読みやすい文章で新書をめったに読まない自分でも苦もなく読めた。IT特有のカタカナ言葉もあったが、普段からネットに接している人ならば特に問題ないレベルのもので、最先端の概念や固有名詞についてはほとんど文中で説明されている。また、最初の総論である第一章まで読めばあとは各論になっているので、途中間をおいてしまっても大丈夫。
4、本書の総論部分のまとめ
ネット世界ではいつでも誰でも繋がることのできるインターネット、IT産業におけるコストは限りなくゼロになっていくというチープ革命、誰もが無料で最先端のソフトを共同で開発できるオープンソースという3つの潮流があり、その潮流からネット世界の三大法則が生み出される。
ネット世界でのみ成立する三大法則
(1)神の視点からの世界理解
神の視点とは一種の比喩で、全体を俯瞰する視点のことを指す。検索エンジン提供者などのネット事業者は、ほぼ不特定多数無限大ともいうべき顧客についての情報を収集し、ネット上にある膨大な量の小さな動きについてまでも全体を俯瞰した視点から理解できる。
(2)ネット上に作った人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
ネット上に作った人間の分身というものはウェブサイトのことで、インターネットの普及とチープ革命により誰でもウェブサイトを作れるようにったことで、「ネット上にできた経済圏に依存して生計を立てる生き方」を企業や人々が追求できるようになった。
(3)(≒無限大)×(≒ゼロ)=Something(いくらかの価値)、あるいは消えて失われていったはずの価値の集積
1億人から1円ずつ集めれば1億円を稼ぐことができるという考え方は、だれもが一度は考えたことがあると思う。このように、ネットの「あちら側」に不特定かつ無限大の人々から非常に小さな額のお金を集めるシステムを作り出すことでいくらかの価値を創出する。リアルではそのようなことは大きな労力と時間がかかるが、ネット上ではほぼゼロコストなので可能である。
「こちら側」から「あちら側」へ
そして、これらの法則や潮流によってこれからのIT産業における主役はパソコンそれ自体についてのビジネスを行っているマイクロソフトやIBMに代表されるネットの「こちら側」から、グーグルやアマゾンに代表されるネットの「あちら側」を舞台とする企業へと移っていくのです。この「こちら側」から「あちら側」への移行がウェブ進化の基本的な部分。
5、具体例としてのグーグル・アドセンス
グーグル・アドセンスとは無数のウェブサイトの内容を自動識別し、それぞれの内容にマッチした広告を自動掲載する登録制無料サービスである。
三大法則に当てはまるような特徴を備えている。
・グーグルは彼らが開発した世界一の検索システムによってありとあらゆるウェブサイトの内容を自動的に把握することができる。よって、広告とウェブサイトとの親和性も世界一であるといえる。法則1に対応。
・ウェブサイト運営者たちは無料で登録したアドセンス広告によりウェブサイト上に配置された広告から自動的に収入を得る。人気のあるサイトでは月に何十万も稼ぐことができる大きな経済圏となっている。法則2に対応。
・ネット上に出す広告のためにコストがゼロに近く、非常に安い価格で広告が出せるので、無数の企業が広告を出すことができる。そして、その広告媒体はネット上で無数に存在するウェブサイトとなるため、グーグルは多大な収益を上げることができる。法則3に対応。
このようなサービスでグーグルは企業から7年で株価総額は10兆円、年間売上高は5000億円の企業に成長。それに対し、コストは従業員5000人分の人件費とPCのみ。そしてこのコストの低さがネットのあちら側の企業の強みとなっている。
6、その他、解説されている現象
グーグル、ヤフー、ロングテール、Web2.0、ウェブサービス、API、ブログ、総表現社会、オープンソース、マス・コラボレーション、Wisdom of Crowds
7、欠点: ネットにおける負の面についてあまり触れられていない。
こういった指摘についてはすでに文中で説明がなされている。日本の権威的な企業におけるネット世界をよく知らないトップたちはネット世界の負の面に注目して、批判している。しかし、グーグルに代表されるシリコンバレーにおいて成功してきた企業は玉石混交であるネット世界における「玉」の部分に注目し、成功してきた。そこで、本書ではネット世界をよく知らない人に対してもまずは「玉」の面に目を向けることを目標としているので、このような構成となっている。
最後に、この本はネットの今と未来に興味がある、すべての人の知的好奇心を刺激するものであるという風に感じた。なので、興味を持った方は一度読んでみてほしい。
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